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第3回 タクシー業界の人手不足の状況について(その2) ― 人材確保に向けた採用戦略の基本的な考え方 ―

第3回 タクシー業界の人手不足の状況について(その2)
― 人材確保に向けた採用戦略の基本的な考え方 ―




【この記事で分かること】

🚕人材確保において「採用」と同じくらい重要な「定着」の考え方
🚕売り手市場で求められる「待ちの文化」からの脱却
🚕女性・高齢者など採用の間口を広げる必要性
🚕タクシー業界が今後取り組むべき人材確保の基本戦略
 



結論 人材確保には「採用」「定着」「採用対象の拡大」を一体的に進めることが重要

前回(その1)では、タクシー業界の人手不足は、労働市場全体の構造変化に加え、高齢化による総労働時間の減少、女性ドライバーの少なさ、正社員中心の雇用構造、外国人材の活用の遅れ、さらには就職先としての認知不足など、業界特有の構造的な課題が複合的に重なって生じていることを説明しました。

こうした状況の中で、人材確保を進めるためには、新たなドライバーを採用するだけでは十分ではありません。現在働いているドライバーが安心して長く働き続けられる職場環境を整備するとともに、従来の採用活動を見直し、女性や高齢者など、これまで十分に採用できていなかった層にも積極的に目を向けていくことが重要です。

また、売り手市場が続く現在では、企業は「人を選ぶ側」ではなく、「求職者から選ばれる側」であるという認識に立ち、採用活動そのものを見直していく必要があります。

本稿では、タクシー業界が今後、人材確保を進めていく上で基本となる考え方について説明します。

 



1.長く働き続けられる職場環境づくり

人材確保というと、新たなドライバーを採用することに目が向きがちですが、それと同じくらい重要なのが、現在働いているドライバーに長く働き続けてもらうことです。

例えば、新たにドライバーを1人採用しても、その間に在籍しているドライバーが2人退職してしまえば、結果としてドライバーは1人減少してしまいます。このため、人材確保は「採用」と「定着」の両面から取り組むことが不可欠です。

特に現在のような売り手市場では、新たな人材を採用すること自体が年々難しくなっています。そのような状況では、離職を防ぎ、人材を定着させることは、新規採用と同じ、あるいはそれ以上に重要な経営課題といえます。

では、どのような職場であれば人材は定着しやすいのでしょうか。

株式会社帝国データバンクが実施した「企業における人材確保・人手不足の要因に関するアンケート」(令和5年)では、人手不足を感じていない企業の取組として、「賃金や賞与の引上げ」(51.7%)が最も多く挙げられています。これに続き、「働きやすい職場環境づくり」(35.0%)、「福利厚生の充実」(26.6%)、「公正で公平な人事評価」(22.0%)、「働き方の多様化やワークライフバランスの推進」(18.8%)などが続いています。

また、厚生労働省「令和5年雇用動向調査」を見ると、転職入職者が前職を辞めた理由として、「職場の人間関係が好ましくなかった」「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」などが多く挙げられています。

さらに、ベンナビ労働問題が実施したインターネット調査「【2,510人の社会人に聞いた!】仕事をやめたいと思ったことはありますか?」でも、「給与が少ないから」が最も多く、次いで「職場の人間関係が悪いから」が上位となっています。

これらの調査結果から分かることは、人材の定着には賃金の改善が重要であることはもちろんですが、それだけでは十分ではないということです。

労働者が納得できる賃金水準を確保した上で、働きやすい職場環境を整備し、福利厚生を充実させ、公正な人事評価を行うこと、さらに上司・部下だけでなく同僚同士も含めて良好な人間関係を築いていくことが、長期雇用につながる重要な要素となります。

また、近年は「どのような職場で働くか」を重視して就職先を選ぶ求職者も増えており、働きやすい職場づくりは、既存従業員の定着だけでなく、新たな人材の採用においても重要な競争力となります。

タクシー業界では、ドライバー不足が続く中で、新規採用に力を入れることはもちろん重要ですが、現在働いているドライバーが安心して長く働き続けられる職場づくりを進めることが、重要な人材確保の基盤となります。

さらに、定着率が高い企業では、平均勤続年数が長くなる傾向があります。平均勤続年数の長さは、働きやすい職場であることを示す一つの指標として求職者に安心感を与えるため、採用活動においても大きなアピールポイントとなります。

そのため、平均勤続年数や平均年齢、定着率など、自社の実績を積極的に公表できる企業は、求人票や採用ホームページ、採用LP(ランディングページ)などで情報発信を行うことも有効な採用戦略の一つであると考えられます。


2.「待ちの文化」から「選ばれる採用活動」への転換

第2回で説明したとおり、売り手市場が続き、スマホによる仕事探しが一般的となった現在では、「求人票を出せば応募が集まる」という従来型の採用活動は十分に機能しなくなっています。

特に中小企業では、企業規模別の欠員率(常用労働者に対する未充足求人の割合)を見ると、30~99人規模の企業が4.9%と最も高く(厚生労働省「労働経済動向調査」(令和6年5月))、人材確保が極めて難しい状況にあります。このような環境の中で、従来と同じ採用手法を続けているだけでは、新たな人材を確保することは容易ではありません。

また、スマホによる求職活動には、パソコンとは異なる特徴があります。例えば、

🚕長い文章は最後まで読まれにくい
🚕最初の数秒で必要な情報が伝わらなければ離脱されやすい
🚕タップする回数が増えるほど途中で閲覧をやめる傾向がある

といった点が挙げられます。

そのため、求人情報は「掲載すること」ではなく、「求職者に届くこと」を意識して作成する必要があります。

売り手市場において企業が求職者から選ばれるためには、賃金や勤務時間だけでなく、自社の魅力や働き方を分かりやすく伝えることが重要です。採用LP(ランディングページ)、求人サイト、SNS、動画など、スマホでの閲覧を前提とした媒体を効果的に活用し、求職者が知りたい情報を分かりやすく届けることが求められます。

また、スマホによる求職活動の特徴にかんがみれば、正社員や短時間勤務といった就業形態ごと、未経験者、若年者、女性、高齢者、子育て世代など、様々な属性ごとにカスタマイズした求人情報を提示する方がスマホ時代に合致した採用活動といえます。

例えば、

🚕未経験者であれば「二種免許取得支援制度」
🚕女性であれば「勤務時間の柔軟性」「女性ドライバーの活躍」
🚕高齢者であれば「年齢を問わず働き続けられる環境」
🚕子育て世代であれば「休日や勤務時間の選択肢」
🚕若年層であれば、20代のタクシードライバーの賃金の高さ
🚕いずれの属性にあっても自宅からの通勤距離の短さ

など、求職者ごとの関心に応じた情報発信を行うことが重要になります。

これからの採用活動では、「求人を掲載して応募を待つ」という発想ではなく、「求職者が知りたい情報を、知りたい形で届ける」という発想への転換が求められています。

 



3.採用の間口を広げる採用戦略の構築

第3回(その1)で説明したとおり、現在のタクシー業界は男性ドライバーが大半を占め、その過半数が60歳以上という年齢構成になっています。

地方都市では、売り手市場への移行に加え、労働市場から供給される人材そのものに限りがあります。このような状況の中で、従来と同じ採用活動を続けてきた結果、多くの地域では、コロナ禍以前のドライバー数まで回復していない状況が続いています。

こうした状況は、これまでの長時間拘束を前提とし正社員中心の採用モデルだけでは、今後の人材確保に限界が生じていることを示しているものだと考えています。

今後は、労働市場の動向やタクシードライバーの人員構成を考慮して、潜在的人材供給源となり得る女性層、安定的な人材供給源となり得る高齢層、長期にわたって継続的な勤続が可能な若年層にも積極的に目を向け、採用の間口を広げていくことが重要です。

(1)女性は最大の潜在人材供給源

全産業では女性労働者が約46%を占めていますが、タクシー業界における女性ドライバーの割合は5.4%にとどまっています。

一方、近年の労働力人口の増加は、女性と高齢者の就業拡大によって支えられています。また、いわゆるM字カーブの解消が進むなど、育児期の女性の就業率も上昇しています。

女性労働者全体の規模や近年の就業動向を踏まえると、女性は今後のタクシー業界における人材確保の最大の潜在人材供給源であると考えられます。

そのため、女性専用設備の整備や柔軟な勤務制度の導入だけでなく、「女性も活躍できる仕事」であることを積極的に発信していくことが重要です。

(2)高齢者は地方都市における重要な人材供給源

女性と同様に、近年の労働力人口の増加を支えているのが高齢者です。

特に地方都市では人口減少が進み、高齢化率がさらに高まることが見込まれる中で、人材確保を図るためには、高齢者層を安定的な人材供給源として視野に入れざるを得ない状況にあると考えられます。また、タクシー業界では、60歳以上のドライバーが全体の55%、70歳以上でも26%を占めており、既に高齢者雇用に関するノウハウが存在する事業であるともいえます。

こうした実態を踏まえると、外国人材の活用が限られているタクシー業界では、地方都市において、他産業を定年退職した人材を採用し、70歳あるいは75歳頃まで健康に働いてもらうことは、人材不足を解消するための現実的な手法の一つであると考えます。

(3)若年者の採用は重要だが、現実も踏まえる必要がある

もちろん、若年者の採用は将来の業界を支える上で重要です。

しかし、若年者については、東北、中国四国、九州を中心に約半数の県において15歳から24歳の進学・就職期の年代について、当該都道府県の約2%以上の人口流出が続いています(内閣官房作成 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査(2023年)、住民基本台帳移動報告(2023年 日本人移動者数)。また、いったん県外へ進学した若年者のうち、地元へ戻ってくる者は27.6%(マイナビ 2026年卒 大学生Uターン・地元就職に関する調査)にとどまっています。

さらに、全タク連の調査では、新卒及び卒業後3年以内の採用者の82.6%が東京都で採用されており、19県では新卒者等の採用実績がありません。

加えて、普通第二種免許の取得要件があることから、高校新卒者を直ちに採用することは現実的ではなく、地方都市の中小事業者にとって若年者採用は非常に厳しい状況にあります。

一方で、全タク連が分析した令和7年賃金構造基本統計調査によれば、製造業、建設業、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業、社会福祉・介護事業などの主要産業と比較しても、タクシー事業は20代前半における平均推計年収が唯一450万円を超えています。

このような賃金面での優位性は、これまで若年層に十分伝えられてきたとは言えません。

そのため、若年層に対しては、「タクシーは稼げる仕事」であることを客観的なデータとともに発信し、就職先の選択肢として認識してもらうことが重要です。

また、若年層は就職先を選ぶ際に親世代の意見や影響を受けることも少なくありません。そのため、若者だけでなく親世代にもタクシー業界への理解を深めてもらい、業界全体のイメージ向上を図ることも重要な取組と考えられます。

(4)外国人材の活用は制度運用の改善と先進事例の水平展開が必要

特定技能制度を含めた外国人材の活用については、前回(その1)で述べたとおり、制度運用上の課題について国に改善を求めていくとともに、外国人材を受け入れている事業者の先進事例を業界内で水平展開し、受入れに対する不安や疑問を解消していくことが重要です。


4.正社員と短時間労働者を組み合わせたハイブリッド型雇用

第3回(その1)では、タクシー業界では正社員が約9割を占め、短時間勤務者の約9割が60歳以上となっており、一般産業と比較して多様な働き方が十分に普及していないことを説明しました。

また、女性ドライバーの割合は5.4%にとどまり、40歳未満の女性は全体の約1%と極めて少ない状況です。

一方、一般産業では、パート・アルバイトなどの短時間勤務を活用することで、子育て世代や高齢者など、多様な人材が就業しています。

このような状況を踏まえると、今後のタクシー業界では、長時間勤務を前提とした正社員だけで輸送サービスを維持していくことは、ますます難しくなることが予想される中で、総ハンドル時間の確保に資する短時間勤務ドライバーの確保は非常に重要なものだと考えます。

もちろん、地域公共交通を支えるためには、基幹となる正社員ドライバーの確保は引き続き重要です。しかし、それだけではなく、短時間勤務を希望する女性や高齢者など、多様な人材が働きやすい勤務制度を整備し、正社員と短時間勤務者を組み合わせた「ハイブリッド型」の人員構成を目指していくことも必要ではないでしょうか。このような人員構成・配置は、繁忙時間帯と閑散時間帯が明確に区別できる地方都市では経営効率上の観点からも有効です。

ただし、育児期間中の女性の場合は、例えば、合宿により短期間に二種免許を取得させるといったことは現実的でないことから、資格取得に一定期間を有するというデメリットが存在しますが、地域交通の維持、人材確保、経営効率の観点からはメリットの方が上回るのではないでしょうか。

今後は、地域の実情や輸送需要を踏まえながら、どのような人員構成が最も効率的で持続可能なのかについても検討を進めていくことが重要です。

 



5.認知不足の解消に向けた情報発信

第3回(その1)では、タクシー業界は、他業界との比較以前に、就職先の候補として十分に認知されていないことが、人材確保の課題の一つとなっていることを説明しました。

今後は、求職者にタクシードライバーという仕事を知ってもらい、関心を持ってもらい、仕事内容を理解してもらった上で、応募につなげていくという、一連の情報発信を意識することが重要になります。

しかし、現時点では、どのような情報発信手法が人材確保に最も効果的であるかについて、業界全体として十分な知見が蓄積されているとは言えません。

このため、全タク連では今年度の取組として、これまでタクシードライバーという仕事を就職先として認識していなかった「不認知層」に対して、どのような広告手法が関心喚起につながるのかを検討することとしています。

具体的には、比較的視聴完了率が高いとされるYouTubeを活用した動画広告を実施するとともに、関心を持った求職者に対して、仕事内容や働き方などをより詳しく紹介する情報LP(ランディングページ)の整備を進める予定です。

また、求人情報はインターネットで探す人が増えている一方で、すべての求職者が能動的に情報収集を行っているわけではありません。このため、インターネットによる情報発信だけでなく、紙媒体によるチラシを活用し、これまで求人情報に接する機会が少なかった層にも情報を届ける取組を進める予定です。

これらの取組については、現時点でその効果を評価できる段階にはありません。

今後は、それぞれの取組について効果を検証するとともに、業界全体で成果や課題を共有しながら、より効果的な情報発信の手法について検討を重ねていくことが重要です。


 
まとめ

本稿では、人材確保を進める上での基本的な考え方として、「採用」と「定着」を一体的に進めることの重要性、「待ちの文化」から脱却し、求職者から選ばれる採用活動への転換、女性・高齢者・若年者・外国人材など採用対象の拡大、さらに正社員と短時間勤務者を組み合わせた人員構成や、認知不足を解消するための情報発信の重要性について説明しました。

現在のタクシー業界が直面している人材不足は、単に求人を増やせば解決するような問題ではありません。労働市場全体の構造変化や地域における人口減少、高齢化などを踏まえると、これまでと同じ採用手法や雇用モデルだけでは、今後も安定的に人材を確保していくことは難しいと考えられます。

今後は、現在働いているドライバーが安心して長く働き続けられる職場環境を整備するとともに、多様な人材が働きやすい勤務制度や、スマホ時代に対応した情報発信を進め、これまで十分に採用できていなかった人材層にも積極的に目を向けていくことが重要です。また、それぞれの取組については実施して終わりではなく、効果を検証し、業界全体で成果や課題を共有しながら改善を重ねていくことも求められます。

地域公共交通としてのタクシーサービスを将来にわたり維持していくためには、人材確保を経営上の課題としてだけでなく、事業の持続可能性を左右する重要な課題として捉え、中長期的な視点で採用・定着・人材育成に取り組んでいくことが重要ではないでしょうか。


■出典

🚕厚生労働省「令和5年雇用動向調査」
🚕厚生労働省「労働経済動向調査」(令和6年5月)
🚕厚労省「令和7年賃金構造基本統計調査」
🚕内閣官房作成 「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査(2023年)、住民基本台帳移動報告(2023年 日本人移動者数)」
🚕マイナビ 「2026年卒 大学生Uターン・地元就職に関する調査」
🚕株式会社帝国データバンク「企業における人材確保・人手不足の要因に関するアンケート」(令和5年)
🚕ベンナビ労働問題「【2,510人の社会人に聞いた!】


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■ 執筆者

久富 康生
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会 常務理事(元長野労働局長)

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