第3回 タクシー業界の人手不足の状況について(その1) ― データで見るタクシードライバー不足の現状と構造的課題 ―
第3回 タクシー業界の人手不足の状況について(その1)
― データで見るタクシードライバー不足の現状と構造的課題 ―
【この記事で分かること】
🚕タクシー業界の人手不足がなぜ深刻化しているのか
🚕大都市圏と地方都市で回復率が大きく異なる理由
🚕高齢化・女性比率・雇用構造など、業界特有の構造的課題
🚕外国人ドライバーの現状と制度的ハードル
🚕求職者にタクシー業界が十分認知されていない背景
■ 結論:タクシー業界の人手不足は、労働市場全体の変化に加え、業界特有の構造的要因が重なっている
第1回では、日本全体の人手不足は労働力そのものの不足ではなく、「労働時間総量」の不足という構造的な問題であることを説明しました。
また、第2回では、労働市場が「企業が選ぶ時代」から「求職者に選ばれる時代」へと大きく変化するとともに、スマートフォンの普及を背景として求職者の求職行動にも大きな変化が見られ、企業には従来の「待ちの文化」から脱却した採用活動が求められていることを説明しました。
これらは全産業に共通する現状と課題であり、タクシー業界も当然ながら例外ではありません。その一方で、タクシー業界には他産業とは異なる構造的な事情が存在し、それが人手不足をより深刻なものとしています。
本稿では、各種データをもとに、まずタクシー業界の人手不足の現状を整理し、次回において今後の対応について説明します。
1.【地域差】コロナ禍前からの回復状況には大都市圏と地方都市で大きな差がある
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)によれば、令和8年6月末の「運転者証交付数の推移」では、タクシードライバー数は、コロナ禍前の令和2年3月31日時点の交付数と比較して87.2%まで回復しています。
ただし、内訳を見ると、東京都や大阪府などの大都市圏では100%に近い水準まで回復している一方、地方都市の中には依然として70%台にとどまっている地域もあります。
このように地域によって回復状況には大きな差がみられ、地方都市におけるタクシードライバーの確保は依然として大きな課題となっています。
2.【人手不足感】事業者の不足感は依然として強く、紹介事業の利用も増加
大都市圏を含めたタクシー事業者の人手不足感については、全タク連が作成した「ハイヤー・タクシー業における高齢者雇用推進に向けたガイドライン」に掲載されたアンケート結果によれば、81.9%の事業者が「ドライバーが不足している」と回答しています。
このように、運転者証交付数は回復傾向にあるものの、事業者の人手不足感は依然として極めて強い状況です。
このような状況は、民間職業紹介事業者の利用状況にも表れています。「令和6年職業紹介事業運営状況」を見ると、新規求職者数(有料)は前年比262.2%増、常用求人数(有料)は41.9%増、常用就職件数(有料)は60.5%増となっています。
これらは求職者が急増したことを意味するというよりも、人材確保のために有料職業紹介事業者を積極的に活用する事業者が増えていることを示しており、事業者の人手不足感を裏付ける結果となっています。
3.【高齢化】ドライバーの年齢構成は一般産業と大きく異なり、継続採用が不可欠
タクシー業界の特徴の一つが、ドライバーの年齢構成です。
タクシードライバーの年齢層は、一般産業と比較すると高齢層の割合が高いという特徴があります。
「令和7年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)によれば、タクシードライバーの平均年齢は56.8歳であり、全産業平均の44.4歳を大きく上回っています。また、全タク連の調査によれば、令和8年3月末時点では、60歳以上のドライバーが全体の55%、70歳以上でも26%を占めており、過半数以上が60歳以上となっています。
このような年齢構成から、タクシー業界では毎年一定数のドライバーが健康上の理由やライフスタイルの変化などを理由として退職しています。
また、定年退職後も引き続き勤務する場合でも、勤務日数や勤務時間を減らした「定時制乗務員」として働くケースも一定数存在しており、短時間で働くタクシードライバーの主力はこれらの層となっています。
その背景には、住宅ローンの返済や子育てが一段落し、年金の受給が始まることで、現役時代のような収入を必ずしも必要とせず、自分の健康や生活との両立を重視した働き方を選択するドライバーもいることがあります。
その結果、フルタイム勤務から短時間勤務へ移行するため、人数的には変化がなくても、一人当たりの労働時間は減少することになります。
一人当たりの労働時間が減少すれば、同じ輸送サービスを維持するためには、その不足分を新たな人材で補う必要があります。
このような事情の下、タクシー業界では、新たな人材を継続的に採用し続けなければ、退職によるドライバー数の減少だけでなく、定時制乗務員への移行に伴う労働時間の減少を補うことができないという構造的な課題を抱えています。
このことは、全タク連が作成した「ハイヤー・タクシー業における高齢者雇用推進に向けたガイドライン」に掲載されたアンケート結果からも裏付けられており、人手不足の要因として、「退職者を採用で補えない」と回答した事業者が40.9%、「高齢化による労働時間の減少」と回答した事業者が27.7%となっており、この二つで約7割を占めています。
このように、タクシー業界では、高齢者が多い年齢構成となっていることから、いかにしてドライバー数だけでなく、総労働時間を確保していくかが大きな課題となっています。
4.【女性比率】一般産業と比較して女性ドライバーが非常に少ない
もう一つの特徴は、男女比に関してドライバーの構成が一般産業と大きく異なることです。
女性ドライバーの割合は、全タク連の調査によれば、令和8年3月末時点で5.4%となっています。全産業に占める女性労働者の割合が46%(総務省「令和7年労働力調査」)であることと比較すると、近年では女性ドライバーは増加傾向にあるとはいえ、依然として非常に少ない状況です。
特に40歳未満の女性ドライバーは全体の約1%程度(全産業では約35%、同調査)にとどまっており、若年女性の就業が極めて少ないことが分かります(全タク連調べ)。
このことは、詳しくは次の項で説明しますが、正社員中心の雇用形態であるため、女性という大きな潜在的労働力を十分に活用できていないことも、人手不足の一因となっています。
5.【雇用構造】正社員中心の雇用構造が多様な働き方を阻害
タクシー業界では、全タク連調べによれば、定時制乗務員の割合は令和7年3月末時点で11.7%となっており、88.3%は正社員で占められています。
また、定時制乗務員の88.9%を60歳以上(全タク連調べ)が占めており、子育て世代や現役世代が定時制乗務員として働くケースは限定的です。一方、一般産業では、パート・アルバイトといった短時間労働者の75%を女性(令和8年5月 労働力調査)が占めており、タクシー業界と一般産業では短時間労働者の構成は大きく異なっています。
全国タクシーJOBステーションに掲載されている求人を見ても、長時間勤務を前提とした正社員募集が多くを占めています。これは、タクシー業界では一般産業とは異なり、フルタイム勤務を前提とした雇用が中心であり、多様な勤務形態が一般産業ほど普及していないことを示しています。
このように、タクシー業界では正社員を中心とした雇用構造となっているほか、短時間勤務を希望する女性や子育て世代を十分取り込めていないことも人材確保の幅を狭める要因の一つになっていると考えられます。
6.【外国人材】外国人ドライバーは制度開始後もまだ少数
令和6年3月には、特定技能制度の対象に自動車運送業が追加され、外国人ドライバーの受入れが可能となりました。
しかし、現時点では受入れ人数はまだごく少数にとどまっています。
その背景には、特段の資格を必要とせず、就労初日から売上に直結する業務に従事できる産業と比較すると、タクシー業界では第二種運転免許を取得するまでは売上に直結する業務に従事できず、その間の賃金負担を事業者が負わなければならないことがあります。
また、日本語能力についてもN3レベルという比較的高い水準が求められるほか、該当する試験の実施回数が限られているなど、制度運用上の課題も残されています。
さらに、外国人材の受入れが進んでいない産業では、先行事例や成功事例を確認しながら受入れが徐々に広がっていく傾向があることも一因と考えられます。
このように、外国人ドライバーは今後の人材確保策として期待されるものの、現時点では人手不足を大きく補う段階には至っていないのが実態です。
7.【認知度】タクシー業界は就職先の候補として十分に認知されていない
例えば、女性がパートとして仕事を探す際、「近所のスーパーで働こう」と考えることはあっても、「近所のタクシー会社でタクシードライバーとして働こう」と考える人は決して多くないでしょう。
これは、タクシー会社が他業界との比較で選ばれなかったという以前に、そもそも就職先の候補として認識されていないことを示しています。
また、親世代が持っていた「長時間労働」「男性の仕事」といったイメージが現在でも残っていることも、若年層や女性がタクシードライバーという仕事を選択肢として考えにくい一因になっていると考えられます。
人材確保のためには、応募者を増やすことだけでなく、これまでタクシー業界を就職先として認識していなかった層に対し、仕事の魅力や働き方を積極的に発信し、新たな就職先の選択肢として認知してもらうことも重要になります。
■ まとめ
タクシー業界の人手不足は、
🚕労働市場の構造変化
🚕高齢化による総労働時間の減少
🚕女性・若年層の少なさ
🚕正社員中心の雇用構造
🚕外国人材の活用の遅れ
🚕就職先としての認知度不足
といった業界特有の要因が複合的に重なって生じています。
次回は、これらの課題を踏まえながら、タクシー業界がどのように人材を確保し、地域公共交通を維持していくべきかについて考えていきます。
■ 出典
🚕厚生労働省「令和6年職業紹介事業運営状況」
🚕総務省「令和7年労働力調査」、「令和8年5月労働力調査」
🚕一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会調べ
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■ 執筆者
久富 康生
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会 常務理事(元長野労働局長)
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