第1回 人手不足はなぜ起きているのか ―人口減少だけでは説明できない「人手不足の原因」と労働市場の構造変化―
第1回 人手不足はなぜ起きているのか
―人口減少だけでは説明できない「人手不足の原因」と労働市場の構造変化―

■ 結論:人手不足の本質は「働く人の数」だけでなく「労働時間総量」の不足にある
いま日本では、タクシー業界をはじめ、多くの業界で人手不足が深刻な経営課題となっています。
人手不足の原因として、「少子高齢化によって働く人が減ったから」と説明されることが少なくありません。しかし、統計を見ると、現在の人手不足は人口減少だけでは説明できません。
実際には、労働力人口や就業者数は増加傾向にあり、企業の求人需要が高まる一方で、一人当たりの労働時間が長期的に減少しています。その結果、企業が必要とする労働時間総量に対して、社会全体の労働時間供給が追いつかなくなっていることが、人手不足の大きな要因となっています。
本稿では、総務省「労働力調査」などのデータをもとに、人手不足の背景にある労働市場の構造変化について整理します。
1.人手不足の原因は人口減少だけではない
一般に「少子高齢化=人手不足」と考えられていますが、現時点では労働力人口そのものは大きく減少しているわけではありません。
総務省「労働力調査」によれば、日本の労働力人口、就業者数、就業率はいずれも上昇傾向にあります。2026年1月には労働力人口が7,000万人を超え、過去最多となりました。
● 若年層・女性・高齢者の就業が拡大
近年の労働力人口増加を支えているのは、これまで労働市場への参加が相対的に少なかった層の就業拡大です。
例えば、
🚕15~24歳の労働力人口は増加傾向にある
🚕女性の就業率は上昇し、いわゆる「M字カーブ」は大きく改善している
🚕65歳以上の高齢者の就業率も上昇を続けている
こうした変化により、人口減少が進む中でも労働市場への参加者は増えてきました。
● 求人数の増加が労働需給を逼迫させている
一方で、企業の求人需要は高い水準で推移しています。
景気回復局面を迎えて以降、コロナ禍の一時期を除き、有効求人倍率は長期にわたって1倍を超え、完全失業率も低水準で推移しています。つまり、人手不足は企業が求める人材需要が増加した結果として生じている面が大きいのです。
2.人手不足の本質は「労働時間総量」の不足
労働力人口が増えているにもかかわらず、人手不足が続いている理由はどこにあるのでしょうか。
その鍵となるのが、「労働時間総量」という視点です。
● 一人当たりの労働時間は長期的に減少している
日本では長年にわたり、一人当たりの総実労働時間が減少しています。
背景には、
🚕昭和62年の労働基準法改正による週40時間労働制の定着
🚕働き方改革の進展による長時間労働の是正
🚕ワークライフバランスを重視する価値観の浸透
などがあります。
かつては人手不足が発生すると、残業や休日出勤によって不足分を補うことができました。しかし現在は、長時間労働による労働力不足の解消は、法制度や社会意識の変化に適合しなくなっています。
● 労働力人口の増加と労働時間の増加は同じではない
労働力人口増加の中心となっている女性や高齢者については、多様な働き方へのニーズも高く、短時間勤務や柔軟な働き方を選択するケースも少なくありません。
このため、女性や高齢者の就業拡大によって労働力人口は増加しているものの、一人当たりの労働時間が減少していることから、社会全体として供給される労働時間総量は労働力人口ほどには増加していません。
さらに近年では、フルタイム求人の充足率も低下傾向にあります。厚生労働省「労働経済白書」によれば、ハローワークにおけるフルタイム求人の充足率は2009年以降大きく低下し、2023年には過去半世紀で最低水準となっています。
企業は欠員が生じても必要な人材を確保しにくくなっており、人手不足は一時的なものではなく、長期化・固定化する傾向を強めています。特にフルタイム労働者は企業の中核的人材であることが多く、その確保が難しくなっていることが、企業の人手不足感を一層強めていると考えられます。
その結果、就業者数は増えていても、企業が必要とする労働時間総量との間にギャップが生じやすくなっています。
3.「働く人がいない」のではなく「必要な労働時間が確保できない」
以上を踏まえると、現在の人手不足は、「働く人がいない」というよりも、「企業が必要とする労働時間を確保できない」という問題として捉えることができます。
また今後は、
🚕生産年齢人口の減少
🚕高齢化の進展
🚕労働力人口の減少局面への移行
が見込まれています。
そのため、人手不足対策としては、
🚕女性や高齢者のさらなる労働参加
🚕外国人材の受入れ
🚕労働生産性の向上
🚕労働時間総量の確保
を総合的に進めていく必要があります。
4.タクシー業界の人手不足をどう考えるか
タクシー事業は典型的な労働集約型産業です。
輸送サービスの供給量は、実際に営業運転を行う時間、すなわち「ハンドル時間」に大きく依存しています。
● タクシー業界が直面する構造的課題
現在のタクシー業界では、
🚕乗務員の高齢化
🚕二種免許取得に要する時間や費用
🚕新規採用の難しさ
🚕地域交通の担い手不足
🚕観光需要の増加
🚕交通空白地帯への対応
といった課題が同時に進行しています。
こうした状況では、単純に乗務員数を増やすだけでは十分ではありません。
● 今後の鍵は「ハンドル時間の確保」
重要なのは、実際に輸送サービスを提供できる時間をいかに確保するかという視点です。
そのためには、
🚕労働生産性の向上
🚕多様な働き方に対応した勤務シフトの構築
🚕外国人ドライバーの活用
🚕デジタル化による配車効率の向上
🚕時間当たり収益の改善
などを総合的に進めていく必要があります。
タクシー業界における人手不足対策は、「人数の確保」だけでなく、「労働時間総量の確保」という視点から考えることが重要になっています。
■ 次回予告
人手不足の背景には、労働市場の構造変化があります。
では、その変化は企業の採用活動や求職者の就職行動にどのような影響を与えているのでしょうか。
次回は、
「企業が選ぶ時代」から「求職者に選ばれる時代」へ
という労働市場の大きな転換について、求人倍率や採用市場の変化を踏まえながら解説します。
■ 関連情報(内部リンク)
タクシー業界の求人情報や最新の募集状況は、 全国タクシーJOBステーション(ジョブステ) でもご覧いただけます。 → 🔗全国タクシーJOBステーション(ジョブステ)の求人一覧はこちら
第2回コラム記事はこちら➡️🔗第2回 「企業が選ぶ時代」から「求職者に選ばれる時代」へ ―売り手市場への転換で変わった採用活動とタクシー会社の求人戦略―
第3回(その1)コラム記事はこちら➡️🔗第3回 タクシー業界の人手不足の状況について(その1) ― データで見るタクシードライバー不足の現状と構造的課題 ―
資料出所:労働力調査(総務省)、令和6年労働経済白書
執筆者:久富 康生(一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会 常務理事・元長野労働局長) → 🔗詳しい経歴はこちら
