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【タクシー業界】最低賃金引上げに必要な生産性向上とは(第2回)|DX・需要分析・ドライバーへのフィードバック

【タクシー業界】最低賃金引上げに必要な生産性向上とは(第2回)|DX・需要分析・ドライバーへのフィードバック




前回は、最低賃金引上げがタクシー業界に与える影響について、人件費負担、認可運賃制度、歩合給、労働時間総量、地域の需要など、タクシー事業の構造から考えました。
タクシー事業が最低賃金引上げに対応するためには、単純にコストを削減するだけではなく、限られた労働時間から、より多くの運送収入を生み出すことが重要になります。

では、タクシーにおける「生産性向上」とは何でしょうか。


「生産性向上=設備投資」だけではない

最低賃金引上げへの対応として、国は中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援しています。
🔗「最低賃金・賃金引き上げに向けた 中小企業・小規模事業者への支援施策」(厚生労働省・中小企業庁)

国は、最低賃金引上げに向けた支援策として、業務改善助成金、キャリアアップ助成金などの各種助成金制度の活用や相談支援、優遇税制、貸付など、様々な支援措置を準備しています。

各種助成金制度は、生産性向上のための設備投資などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた中小企業・小規模事業者に対して、設備投資等にかかった経費の一部を助成する制度といったものが多く、こうした支援は、中小企業の生産性向上を促す上で重要ではあります。

しかし、タクシー事業について考えると、「設備を導入すれば生産性が上がる」という単純なモデルだけでは対応できない問題があります。
なぜなら、タクシーの生産性を大きく左右するのは、設備だけではなく、その地域にどれだけの需要が存在するかだからです。

新しい車両を導入しても、地域のタクシー需要が自動的に増えるわけではありません。
新しい配車システムを導入しても、地域全体の移動需要が突然増えるわけではありません。

タクシーにとって重要なのは、「どのような設備を導入するか」だけではなく、「存在する需要をどのように取り込み、限られた労働時間をどのように運収につなげるか」ということです。


タクシーに必要な5つの生産性向上・需要対策

タクシー事業が最低賃金引上げに対応し、地方の供給力を維持していくためには、少なくとも次のような取組が必要になると考えられます。

① 運送収入につながらない運転時間以外の労働時間を削減する

タクシードライバーの労働時間が、すべて運送収入を生み出す時間というわけではありません。乗客を輸送している時間だけでなく、配車を待つ時間、需要のない場所で待機する時間、出庫・帰庫やその他の業務に要する時間などがあります。
そのため、同じ労働時間であっても、運送収入につながらない運転時間以外の労働時間をどれだけ削減できるかによって、生産性は大きく変わります。

タクシーにおける生産性向上とは、単純に勤務時間を長くすることではありません。
同じ労働時間の中で、より多くの運送収入を生み出すことが重要です。

② 電話予約など、既存需要の取りこぼしを防ぐ

タクシー事業では、新しい需要を創出するだけでなく、すでに存在している需要を取りこぼさないことも重要です。
例えば、利用者から電話による配車依頼があったにもかかわらず、

電話がつながらない

受付できない

利用者が他社や別の交通手段を利用する

ということが起きれば、本来得られたはずの需要が失われます。

電話受付体制の改善、配車業務の効率化などは、タクシー事業にとって重要な生産性向上策となります。
これは新しい需要を創出するというより、すでに存在する需要を確実に売上につなげる取組です。

③ タクシーアプリによって需要と供給を結び付ける

タクシーアプリも重要な手段です。タクシーアプリは単なるIT化ではありません。利用者の需要と空車を効率的にマッチングさせる仕組みとして機能します。

電話による配車依頼だけでは取り込めなかった需要を取り込み、空車の走行時間を減らし、実車につなげることができれば、同じドライバー数、同じ労働時間でも運収を高められる可能性があります。

ただし、日本全国では、タクシーアプリの利用率は20~30%前後にとどまるものと考えられ、地方ではアプリ利用者そのものが少ない地域もあります。そのため、アプリを導入すればすべてが解決するわけではありません。

さらに、電話予約を中心とした既存需要の取りこぼしを解消するなどの技術は、業界全体で汎用化して活用できるほどの水準まで開発・実用化されていない状況です。

※2024年にICT総研が実施した「2024年 タクシー配車アプリ・ライドシェア利用動向調査」では、タクシーアプリの利用者数は1,664万人、利用率は20.4%とされています。また、同調査では2026年の利用者数を1,915万人と推計していることを基に筆者が推計しました。

🔗資料出所:2024年 タクシー配車アプリ・ライドシェア利用動向調査|ICT総研【ICTマーケティング・コンサルティング・市場調査はICT総研】


④ 時間帯・場所ごとの需要を分析する

タクシーの生産性を高める上で、今後さらに重要になるのが、需要データの活用です。
理想的には、

いつ

どこで

どの程度の需要が発生するのか

を分析し、その結果に応じてドライバーの走行・待機のあり方を変えていくことが求められます。
例えば、

🚕朝は駅周辺で需要が多い
🚕昼間は病院や商業施設周辺に需要が集中する
🚕夕方は駅や住宅地域で需要が増える
🚕夜間は繁華街や主要駅に需要が集中する

といった地域ごとの特性を把握することができれば、ドライバーが「どこで、いつ営業するか」を考える上で重要な情報になります。
つまり、「長く働く」ことではなく、「需要のある時間・場所で働く」ことによって運収を高めるという発想です。

⑤ 需要分析の結果をドライバーにフィードバックする

しかし、ここで重要な問題があります。データを分析するだけでは、運収は増えません。
例えば、「18時から20時に駅周辺の需要が増える」というデータが得られたとしても、それだけではドライバーの営業行動は変わりません。
その分析結果を、「今日は18時から20時に駅周辺を重点的に営業する」という具体的な営業戦略に変換し、さらにドライバーに分かりやすく伝える必要があります。

つまり、

データ収集

分析

営業戦略

ドライバーへのフィードバック

営業行動の変化

運収の変化

というプロセスが必要です。

ここには、システムだけではなく、データを読み解き、営業戦略に変換する人的なノウハウが必要になります。


「データがあること」と「データを使えること」は違う

タクシー事業者が需要データを持っていたとしても、それだけで生産性が向上するわけではありません。

必要なのは、

🚕どのデータを見るのか
🚕どの時間帯を見るのか
🚕どの地域を比較するのか
🚕需要の変化をどう判断するのか
🚕その結果を営業方法にどう反映するのか
🚕ドライバーにどう伝えるのか
🚕実際の運収がどう変化したのかをどう検証するのか

という一連の分析ノウハウに加え、分析結果をドライバーに理解しやすく指示した上で、実行状況を把握・管理できる人材の確保が必要です。
特に地方の中小タクシー事業者にとっては、こうした分析や営業戦略を専門的に担う人材を確保すること自体が容易ではありません。

したがって、「システムを導入する」ことと、「システムを効果的に利用して生産性を高める」ことは、別の問題として考える必要があります。


DX化を進めても、技術的に解決できない課題がある

さらに、タクシー業界ではDXを進めればすべてが解決するわけではありません。
タクシーにとって理想的なDXは、

需要データの収集

需要予測

空車情報の把握

需要発生地域への車両配置

配車

運行

運収分析

までを一体化するものです。
そして、その結果をリアルタイムにドライバーへフィードバックし、「今、どこへ行けば需要を取り込める可能性が高いのか」を判断できるようになれば、タクシーの生産性は大きく変わる可能性があります。

しかし、こうした仕組みのすべてが、現在のタクシー業界で十分に実用化されているわけではありません。また、地方では需要そのものが少ないため、AI等を活用した需要予測を行う場合でも、十分なデータを蓄積できないという問題があります。

つまり、

需要が少ない

データが蓄積されにくい

高度な需要分析が難しい

生産性向上が進みにくい

という地方特有の問題もあります。


タクシーにおける「生産性向上」は需要との戦い

製造業であれば、設備を導入して生産速度を高めれば、一定の条件下では生産量を増やすことができます。しかし、タクシーの場合はそう単純ではありません。
ドライバーが長時間営業しても、利用者がいなければ運送収入は増えません。
したがって、タクシーにおける生産性向上とは、限られた労働時間の中で、より多くの運送収入を生み出すことです。

そのためには、

① 運送収入につながらない運転時間以外の労働時間を減らす
② 既存需要の取りこぼしを防ぐ
③ 需要と空車をマッチングする
④ 需要を分析する
⑤ 分析結果をドライバーの営業行動に反映する

という一連の取組が必要になります。これは、一般的な「設備投資による生産性向上」とは異なる、タクシー独自の課題です。


最低賃金引上げ支援策だけでは対応できない課題

もちろん、国による最低賃金引上げ支援策がタクシー事業にまったく利用できないという意味ではありません。専門家による相談支援や、一定の設備投資等については活用できる可能性があります。
しかし、タクシー事業が必要としているのは、

設備・システム

データ分析

営業ノウハウ

ドライバーへのフィードバック

を一体として進めることです。

特に、「需要を分析する人」と、「分析結果をドライバーの営業活動に結び付ける人」を育成することは、設備を購入するだけでは実現できません。
ここに、タクシー事業が必要とする生産性向上と、現在の最低賃金引上げ支援策との間にある一つのギャップがあります。


第2回のまとめ

タクシー事業が最低賃金引上げに対応するためには、単純なコスト削減だけでは限界があります。
必要なのは、限られた労働時間から、より多くの運送収入を生み出すことです。

そのためには、

運送収入につながらない運転時間以外の労働時間を減らす
→ 既存需要を取りこぼさない
→ アプリ等で需要と供給を結び付ける
→ 時間帯・場所ごとの需要を分析する
→ 分析結果を営業戦略に変える
→ ドライバーにフィードバックする

という取組が必要です。そして、そのためにはDXだけではなく、データを分析し、営業ノウハウとして活用する人的能力が不可欠です。
しかし、地方ではそもそも需要が少なく、事業者の努力だけでは解決できない問題もあります。

次回は、地方タクシー事業の維持と交通空白の解消という観点から、自治体による需要喚起の必要性、最低賃金引上げ支援策とのミスマッチ、そして全国平均1,500円時代を見据えた政策対応について考えます。


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■ 執筆者

久富 康生
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会 常務理事(元長野労働局長)

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