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【10月17日更新 2026年10月1日施行・カスハラ対策】タクシーの現場でカスハラが起きたら?具体例と乗務員・会社の対応【後編】

【10月17日更新 2026年10月1日施行・カスハラ対策】タクシーの現場でカスハラが起きたら?具体例と乗務員・会社の対応【後編】



はじめに

前編では、2026年10月1日から事業主にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務付けられることを受け、カスハラの定義や正当な苦情との違い、事業者が講じなければならない措置について解説しました。
また、カスハラ対策は、人材の定着や新規採用の促進につながる重要な職場環境整備の一環でもあること、対策の徹底に当たっては、企業トップが積極的な姿勢を示すことが重要であることについても解説しました。

では、タクシーの現場では、実際にどのようなカスハラが起こり得るのでしょうか。

タクシー事業には、乗務員がお客様と車内で一対一になる、道路状況によって到着時刻や経路が変わる、深夜には酒に酔ったお客様を乗せることがあるなど、他の業種とは異なる特徴があります。
また、お客様と接するのは乗務員だけではありません。配車オペレーターが電話で暴言や無理な要求を受けたり、営業所の管理者が謝罪や賠償を過剰に要求されたりする場合もあります。

今回は、一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会(東タク協)が作成した「カスタマーハラスメント防止のための団体マニュアル」を参考に、タクシー事業で想定される具体的なカスハラと、乗務員・配車オペレーター・営業所管理者、そして会社がどのように対応すればよいのかを解説します。

※10月17日追記: 記事末尾の「まとめ」の後に、国土交通省が公表したカスタマーハラスメントに関する標準運送約款の改正案についての解説を追加しました。


1 タクシー事業では、どのようなカスハラが起こり得るのか

タクシー事業におけるカスハラは、車内だけで発生するものではありません。
乗務員であれば車内、配車オペレーターであれば電話、営業所管理者であれば電話や営業所への訪問など、さまざまな場面で発生する可能性があります。
例えば、乗務員に対しては、

🚕暴言、罵倒、人格を否定するような発言 
🚕運賃や経路などをめぐる執拗な要求 
🚕運賃の支払拒否 
🚕殴る、蹴る、物を投げるなどの暴力 
🚕車内設備等の損壊 
🚕危険な運転の要求 
🚕目的地を明らかにしない、目的地変更を繰り返すなどの長時間拘束 
🚕性的な発言や行為 
🚕SNSへの投稿・拡散などを利用した威嚇 

などが考えられます。
配車オペレーターに対しては、配車できないことを理由とする罵倒や無理な配車要求、長時間にわたる電話などが、営業所管理者に対しては、暴言や威圧的な言動、過剰な謝罪・賠償要求などが想定されます。

重要なのは、単に「お客様が怒っている」というだけでカスハラと判断しないことです。

前編で説明したとおり、要求内容に妥当性があるのか、その要求の方法や態様が社会通念上許容される範囲にあるのかなどを確認し、通常の苦情なのか、カスハラに該当するのかを判断する必要があります。


2 乗務員がカスハラを受けた場合―最優先は安全の確保

タクシー乗務員へのカスハラ対応で、何より優先しなければならないのは、乗務員自身と乗客、周囲の安全です。
特に走行中にお客様から暴言や威圧的な言動を受けた場合、言い争いに意識を向ければ、安全運転そのものに支障が生じるおそれがあります。


暴言や執拗な要求を受けた場合

運賃や経路、接客などについて苦情を受けた場合には、まずお客様の話を聞き、事実関係を確認したうえで冷静に説明することが基本です。
会社や乗務員側に問題があれば、必要な説明や謝罪を行います。
しかし、必要な説明を行っても暴言や執拗な要求が続き、安全な運行や正常な業務の継続が困難になる場合には、乗務員一人で対応を続けるのではなく、営業所や管理者へ報告して対応を引き継ぐことが必要です。


暴力や危険な行為があった場合

殴る、蹴る、胸ぐらをつかむ、物を投げる、運転席を蹴るなどの行為は、単なる苦情の範囲を超えています。
こうした行為は、その態様によって暴行罪や傷害罪に該当する可能性があります。また、車内設備等を壊した場合には、器物損壊罪に該当する可能性があります。
暴力等の危険がある場合には、乗務員一人で解決しようとせず、安全な場所に車両を停車させ、営業所や管理者へ連絡し、必要な場合には警察へ通報します。
また、後の事実確認のため、ドライブレコーダーの映像や音声、運行記録などを適切に保存しておくことも重要です。


長時間の拘束などを受けた場合

目的地を明らかにしないまま走行を続けさせる、目的地の変更を繰り返すなどの行為によって、乗務員が長時間拘束される場合も考えられます。
このような場合にも、乗務員が際限なく要求に応じ続けるのではなく、会社で定めた対応方法に従い、営業所や管理者へ報告して対応を引き継ぐことが重要です。


3 配車オペレーターへのカスハラ―「電話を切れない」状態にしない

タクシーのカスハラというと車内を想像しがちですが、配車オペレーターもお客様から直接カスハラを受ける可能性があります。

例えば、

「なぜ車が来ないんだ」
「今すぐ車をよこせ」

といった要求から始まり、暴言、罵倒、人格を否定するような発言へ発展することがあります。
また、同じ要求を長時間繰り返したり、何度も電話をかけたりすることで、配車業務そのものに支障を生じさせる場合もあります。
ここで重要なのは、オペレーター個人に「どこまで我慢するのか」を判断させないことです。
会社として、

🚕どの段階で注意や警告を行うのか 
🚕どのような場合に電話対応を終了するのか 
🚕どの段階で上司や管理者へ引き継ぐのか 
🚕繰り返し電話があった場合にどう対応するのか 
といったルールをあらかじめ決めておくことが重要です。


4 営業所管理者へのカスハラ―謝罪や補償の要求にも限度がある

乗務員や配車オペレーターから苦情対応を引き継いだ営業所管理者が、新たなカスハラの対象になることもあります。

例えば、

🚕長時間にわたって怒鳴り続ける 
🚕人格を否定するような発言を繰り返す 
🚕土下座など過剰な謝罪を要求する 
🚕合理的な根拠のない高額な賠償を要求する 
🚕同じ内容で繰り返し電話する 
🚕営業所への訪問を繰り返す 
🚕威圧的な態度で要求を続ける 
といったケースです。

会社側に問題があれば、必要な説明や謝罪、適切な補償を行うことは当然です。
しかし、正当な謝罪や補償と、社会通念上許容される範囲を超えた要求とは分けて考える必要があります。
管理者に交代した後も過剰な要求が続く場合には、複数人で対応する、やり取りを記録する、一定の段階で対応を終了するなど、個人ではなく組織として対応することが重要です。


5 カスハラかどうか迷ったら―客観的な事実を確認する

実際の現場では、カスハラに該当するかどうかをすぐには判断できないケースもあります。
その場合に重要なのが、事実関係を客観的に確認することです。

具体的には、相談者から事情を聞き取るとともに、対応記録、メモ、写真、録音・録画データなどの証拠があれば、その内容を確認することが必要です。

そのうえで、客観証拠や争いのない双方の供述等に基づき、お客様等の要求内容に妥当性があるのか、要求の方法や態様が相当な範囲にあるのかなどを検討し、カスハラに該当するかを判断します。

タクシーの場合には、ドライブレコーダーの映像・音声や運行記録なども重要な資料となります。
確認の結果、カスハラではないと判断した場合には、通常の苦情として適切に対応します。

一方、カスハラと判断した場合には、対応の中止や警察への通報など、事案に応じた対応へ移行します。
つまり、

「苦情を言われたからカスハラ」でもなければ、「お客様だから何をされても対応し続ける」でもない

ということです。


6 悪質なカスハラには、警察・弁護士等との連携も

カスハラの中には、会社内部だけで対応すべきではない事案もあります。
暴行、傷害、脅迫、器物損壊など犯罪に該当する可能性のある行為については、警察との連携が必要になる場合があります。

また、長期間にわたり執拗な要求が続くなど、法的な対応が必要な場合には、弁護士等の専門家と連携することも考えられます。
会社としてカスハラに該当すると判断し、法令や運送約款等に基づく正当な理由があると認められる場合には、対応を打ち切り、その後の乗車・配車・サービス提供を断る場合があること、さらに悪質かつ重大な場合には警察・弁護士等と連携して毅然と対応することなどについて、会社としての基本方針を定め、従業員に周知しておくことが重要です。

いずれにしても、カスハラ事案については、会社が組織として対応することが非常に重要です。
警察へ連絡するか、対応を終了するかといった判断を、現場の乗務員やオペレーターだけにゆだねないことが重要です。
そのため、会社としての判断基準と連絡・報告の流れをあらかじめ決めておく必要があります。


7 カスハラ対応は、お客様への対応が終われば終了ではない

カスハラへの対応は、お客様とのやり取りが終わればそれで終了というわけではありません。
暴言、脅迫、暴力、性的な言動などを受けた従業員は、身体的・精神的なダメージを受けている可能性があります。

このため、相談への初期対応を適切かつ迅速に行うこととともに、カスハラを受けた従業員への速やかなケアが重要です。
必要に応じて、産業医や産業カウンセラー等の専門家への相談につなげることや、精神的な負担の状況に応じた配慮なども考えられます。

また、発生した事案をその場限りで終わらせず、

「なぜ発生したのか」
「現場の対応は適切だったか」
「会社のルールで対応できたか」
「今後、同様の事案が発生したらどうするか」

を検証し、必要に応じて対応方法を見直すことも重要です。


8 対応に迷った場合には、厚生労働省の無料専門家派遣も活用できます

実際にカスハラが発生すると、

「どのように事実関係を確認すればよいのか」
「被害を受けた従業員にどのような配慮をすればよいのか」
「行為者への対応をどうすればよいのか」
「再発防止のために何を見直せばよいのか」

など、特に専門の人事・労務担当者がいない中小事業者では、対応に迷うことも考えられます。

厚生労働省では、ハラスメント事案が発生した企業等の事業主や人事労務管理担当者を対象に、労務管理に精通した専門家を無料で派遣し、対応について助言する支援事業を実施しています。オンラインでの対応も可能です。
支援は全4回を基本として行われ、大きく分けると、次の3段階で進められます。

① 現状のヒアリング、情報・課題の整理(1~2回)

↓

② 事実関係を確認する方法、被害者への適切な配慮、行為者への措置等についての助言(1~2回)

↓

③ 支援後の進捗状況を踏まえたフォローアップと再発防止措置についての助言(1回)

ただし、この制度は専門家が会社に代わって問題を処理してくれるものではありません。

カスハラに該当するかどうかの最終的な判断・認定、関係者への処分や配置転換などの措置は、事業者自身の責任で行う必要があります。また、専門家が被害者や行為者へ直接対応したり、会社に代わって事実関係を調査したり、法律上の代理人として活動したりする制度でもありません。
自社だけでは適切な対応方法を整理することが難しい場合には、こうした公的な支援制度を活用することも一つの方法です。

実際に発生した個別のハラスメント事案について、労務管理に精通した専門家から無料で助言を受けることができる貴重な支援制度です。特に、専門の人事・労務担当者を置くことが難しい中小事業者にとっては、有効な選択肢の一つといえるでしょう。


9 タクシー会社に求められるのは「一人で対応させない仕組み」

タクシー事業のカスハラ対策で特に重要なのは、乗務員や配車オペレーターを孤立させないことです。
乗務員は車内でお客様と一対一になります。配車オペレーターも電話では一人でお客様に対応します。

そのような状況で、

「お客様なのだから我慢する」
「現場で何とかする」

という対応では、会社としてのカスハラ対策にはなりません。
会社として、次のような一連の流れを作っておくことが重要です。

現場で一次対応する

↓

一定の段階で管理者へ報告・引継ぎする

↓

会社として事実関係を確認する

↓

通常の苦情かカスハラかを判断する

↓

カスハラの場合は必要に応じて対応を終了する

↓

悪質・重大な場合には警察・弁護士等と連携する

↓

被害を受けた従業員をフォローする

↓

事案を検証し、再発防止につなげる

したがって、カスハラを受けた乗務員、配車オペレーター、営業所管理者等の心身のケアを優先すること、社内相談窓口を設置すること、必要に応じて警察・弁護士等と連携すること、さらに乗務現場・配車センター・営業所を含め、従業員が安心して報告できる仕組みを構築することなどを基本方針として定めることが必要です。


まとめ―「お客様への適切な対応」と「従業員を守ること」を両立する

タクシーは、お客様を安全に目的地までお送りする公共交通機関です。
乗務員の接客や運転、運賃、経路などについて正当な苦情があった場合には、事実を確認し、必要な説明や謝罪を行い、サービスの改善につなげることが必要です。

一方で、暴言、脅迫、暴力、性的な言動、長時間の拘束、過剰な要求など、社会通念上許容される範囲を超えた言動についてまで、従業員が我慢し続けなければならないものではありません。

カスハラ対策で重要なのは、正当な苦情には適切に対応し、カスハラには会社として組織的に対応することです。
そのためには、乗務員、配車オペレーター、営業所管理者それぞれについて具体的な対応方法を決め、研修などを通じて共有しておく必要があります。

具体的には、カスハラへの対応に関する研修として、正当な苦情との区別、事実確認、録音・録画、組織内の情報共有、一次対応から二次対応へ移る目安、ケーススタディ、警察との連携、従業員へのフォローなどが考えられます。

そして、

「困ったときには会社が引き取る」
「危険な場合には対応を続けなくてよい」
「一人で抱え込まなくてよい」

ということを従業員に明確に伝え、実際に会社が対応する仕組みを作ることが、カスハラ対策であると同時に、従業員が安心して働き続けられる職場づくりにもつながります。


追記 カスタマーハラスメントに関する標準運送約款の改正について

国土交通省は、一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款等にカスタマーハラスメントに関する規定を新設するため、本年12月1日施行予定の改正案についてパブリックコメントを実施しています。

今回の改正案では、次の事項などを明確化することとされています。

① 旅客による乗務員等に対するカスタマーハラスメントを差し控えること

② 乗務員等がカスタマーハラスメント行為の中止を求めることができること

③ 旅客がその求めに応じない場合には、運送の引受け又は継続を拒絶することができること

2026年10月1日に施行された改正労働施策総合推進法では、カスハラ対策として必要な雇用管理上の措置を講じることが事業主に義務付けられました。

これに対し、今回の標準運送約款の改正案は、旅客にカスハラ行為を差し控えることを求めるとともに、事業者が一定の場合に運送の引受けや継続を拒絶できることが明確化されるものです。

また、現行の標準運送約款第10条では、旅客の故意・過失や運送約款違反によって事業者が損害を受けた場合には、その旅客に損害賠償を求めることができる旨が規定されています。

今回の改正によって、カスハラ行為が運送約款上の禁止・抑止の対象として明示されることで、カスハラ行為によって事業者に損害が生じた場合には、同条に基づく損害賠償請求の対象となり得ることも、より明確になります。

このように、今回の改正は、タクシー事業者がカスハラに対して毅然と対応するための運送契約上の根拠を明確にし、乗務員をはじめとする従業員の保護を図るうえで重要な意義があります。

ただし、カスハラ行為に該当するかどうかの事実認定や、運送の引受け・継続を拒絶することが適切かどうかの判断については、現場の従業員だけにゆだねるのではなく、会社として組織的に対応することが重要です。対応を現場の従業員だけにゆだねれば、かえって乗客とのトラブルを拡大させるおそれがあります。

また、タクシーは公共交通機関であることから、消費者の権利や障害のある方への合理的配慮などにも十分留意する必要があります。

このため、今回の標準運送約款の改正に対応するに当たっては、カスハラの判断基準、行為の中止要求、運送の引受け・継続を拒絶する場合の対応方法、速やかな営業所への報告・連絡体制などをあらかじめ整理し、その内容が徹底されるよう従業員への研修を十分に行うことが的確な対応を図るための大きなポイントとなります。

事業主に対するカスハラ対策の義務化と、標準運送約款によるカスハラへの対応の明確化。この両面から、乗務員等を守る仕組みを整備し、適切に運用することが、今後のタクシー事業者に求められます。

一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款等の一部を改正する告示案について


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参考資料

🚕東京ハイヤー・タクシー協会「カスタマーハラスメント防止のための団体マニュアル」 
🚕厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(カスタマーハラスメント防止指針)」 
🚕厚生労働省「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」
🚕厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」 

🚕厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」 
🚕厚生労働省「ハラスメント事案に直面した事業主への専門家派遣事業」


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■ 執筆者

久富 康生
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会 常務理事(元長野労働局長)

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